とんぼりリバーウォークのしくみ



水都大阪に行ってきました。




こちらの写真は、グリコの看板で有名な道頓堀川沿いの空間です。

道頓堀川沿いには、平成16年に整備された遊歩道「とんぼりリバーウォーク」が伸びており、多くの観光客がグリコ看板下で写真を撮っていたり、川沿いのお店のテラス席で食事をしていたりといった様子が見られます。



下の写真が有名なグリコの看板下の様子です。

左下の飲食店の周辺は、青いオーニング(庇)の下やその先の遊歩道にも、多くのテラス席が用意され、たくさんの人が集まっています。ちなみに、この写真は日曜日の14時頃撮ったものです。




続いて、下の写真は、その川を挟んで反対岸の様子を戎橋の上から見ています。

右側に、かに道楽、びっくりドンキーの看板が見えます。

ぱらぱらと人が歩いているのは見えますが、先程のグリコ看板下と比べると、同じ時刻ではあるのですが、少し賑やかさに欠ける印象です。



ちなみに、この写真を撮った1か月後の平日のお昼に再び訪れたときは、下のように人気(ひとけ)がほぼ感じられないほどでした。


観光客に人気(にんき)のあるグリコ看板下と比較されたら分が悪いというのはありますが、とんぼりリバーウォークの他の場所と比べてもやはり、このかに道楽・びっくりドンキーのあたりは少し残念な雰囲気でした。


遊歩道が広めにとられていることもあって、間延びしたような印象を与えてしまっていることもあるように思います。

せっかくきれいに整備されているからこそ、非常にもったいない水辺空間です。










さて、今回はこんな「とんぼりリバーウォーク」を題材に、水辺空間に関するまちづくりの「しくみ」について考えてみます。


(以降は、あくまで個人的な勉強のためにウェブ上で調べた内容であって、誤った情報が含まれている可能性がありますので、ご了承ください。)





結論から言いますと、とんぼりリバーウォークは、「河川敷地占用許可準則」における「特例措置」を活用することによって水辺空間での賑わいづくりの取り組みが先進的に進められてきた事例です。





(急に専門的になりましたが、構わず続けます)



具体的には、この河川敷地占用許可準則の特例措置の活用によって、これまでは一般的にはできなかった、河川敷地での民間による物販行為やオープンカフェの設置、イベント施設の設置が可能となったのです。






一つずつ順を追って説明していきます。





まず、この道頓堀川および道頓堀川沿いの遊歩道「とんぼりリバーウォーク」は、河川法第6条第1項の「河川区域」であり、河川敷地占用許可準則における「河川敷地」にあたります。


つまり、法的には、道頓堀川だけでなく遊歩道部分も、民間の敷地ではなく、大阪市が管理する「河川」として位置付けられているということです。






そして、この河川敷地を占用しようとする場合には、河川法第24条(土地の占用の許可)に基づき、河川管理者(今回は大阪市)の許可を得る必要があります





ここで、「占用」とは、まちづくり分野では頻出ワードなのですが、要するに「特定の者がその場所を継続的に使用すること」と言えます。イベントのステージ設置やオープンカフェのテーブル設置は、継続的な使用と考えられるため、「占用」にあたります。

逆に、短時間の使用(例えば、河川敷をただ散歩する場合)では、「占用」にはあたらず、河川管理者への許可は不要です。







話を戻します。





平成16年3月23日、国土交通省から河川敷地占用許可準則の特例措置について通達が出され、一定の条件下で、河川敷地において物販行為、オープンカフェ、イベント等の実施が認められるようになりました。


なお、この段階では、占用主体は公共性・公益性を有する者等に限定されており、民間事業者による占用は認められていませんでした。




とんぼりリバーウォークは、平成16年3月30日、この特例措置を適用する区域として、まず道頓堀川の「戎橋」~「太左衛門橋」間が国土交通省河川局長から指定を受け、1.まちづくり・賑わい創出効果、2.適正な維持管理、3.河川空間への新たなニーズ把握を目的として、平成17年6年月から社会実験が実施されました。



 この社会実験の実施に際しては、地元関係者との意見調整や河川敷地の公平かつ適正利用を確保するための検討の場として、学識経験者、沿川地元代表、行政で構成する「道頓堀川水辺協議会」を設置することとし、以降の河川敷地占用許可準則の改正後も同じ枠組みを継続しているとのことです。



ここでの、道頓堀川の河川敷地占用の枠組みは下図のとおりです。占用主体は、公益法人等(一般財団法人 大阪市都市建設技術財団)でした。

出所)大阪市HP

http://www.city.osaka.lg.jp/kensetsu/page/0000275944.html






その後、平成23年3月、国土交通省の成長戦略(平成22年5月)に掲げる行政財産の商業利用の促進を背景として、民間事業者等による河川敷地の利用を可能にするために、河川敷地占用許可準則が一部改正されました。


これにより、これまで河川局長の区域指定によって行われていた社会実験は終了し、河川管理者が協議会等の活用により地域の合意を図った上で区域、占用施設、占用主体をあらかじめ指定することにより、従来の「特例措置」の内容が全国で実施可能となりました

道頓堀川については、平成24年4月、河川管理者である大阪市により、道頓堀川の湊町(浮庭橋)~日本橋までの区間(約1km)が準則に基づく規制緩和区間として指定されました。



またこの準則の一部改正により、占用主体についても、これまでの公的主体に加え、民間事業者も認められるようになりました。

道頓堀川については、平成24年4月、民間事業者である南海電鉄株式会社が占用主体として指定されました。






こうして、冒頭のグリコ看板下で見られたような、民間事業者によるオープンカフェが実施できるようになったのです。



なお、この占用主体は、イべント・オープンカフェ等の誘致や実施(開催)などの「賑わいの創出に関する業務」および、警備・清掃などの「維持管理業務」がセットとなった一括管理運営を行う者として公募で選定されました。



また、公募は3年おきに行うこととされていたため、平成27年3月に一度期間は終了しているはずです。しかし、軽くネットで検索したところでは、その事業者が同じく南海電鉄であるか否かは確認できませんでした。ですが、おそらく同じなのではないかとは思います。

出所)国土交通省資料

http://www.mlit.go.jp/river/kankyo/main/kankyou/machizukuri/pdf/06-02.pdf





大きな枠組みとしては、とんぼりリバーウォーク全体の占用主体は南海電鉄であり、占用に際しては、この南海電鉄が河川管理者である大阪市に占用料(大阪府流水占用料等条例第 2 条に基づき、オープンカフェの場合、年間10,300 円/㎡)を支払っています



そして、その占用許可とは別に、オープンカフェを開いている各店舗は、敷地の使用者として南海電鉄との間に利用契約を結び、南海電鉄に対して使用料を支払うという構図です。



この使用料は、とんぼりリバーウォークの中のスペースごとに金額が異なっており、とんぼりリバーウォークのホームページによると、下図のようになっています。

出所)2つとも、とんぼりリバーウォークHP

http://www.tonbori.jp/




このうち、冒頭で人気(ひとけ)のなさが目立っていたかに道楽裏のスペースは、図中の赤い点線で囲んだスペースで、広さは「577㎡」、単価は休日で「320円/日・㎡(税抜)」とあるので、仮にそのスペースでオープンカフェを出すとした場合、休日1日で18万4640円(税抜)を南海電鉄に支払うことになります。

通路も必要ですし、そもそも577㎡のカフェはなかなかの広さになるので、現実的ではないかもしれませんが、まあまあな金額になりそうです。



もう少し現実的な計算をすると、テーブル1つとイス2つの1セットとしたとき、その設置に必要なスペースをざっくり2.5㎡と仮定すると、休日1日の利用料は320×2.5で800円、とかなりリーズナブルになります。しかし、これを複数設置するとなると、席同士をある程度離す必要があるので必要なスペースはもっと広くなります。



あとは、常に店内席が余っているような店舗の場合には、わざわざ追加の使用料を払ってオープンカフェ席を設置するのか?という視点もありそうです。





こういったことも考えてみると、もともとは実現できなかった河川敷地でのオープンカフェの設置が「制度上」可能になったとはいえ、この使用料の料金設定によっては、それが実現しづらいという課題もあるのかもしれません。(実際に、テナントや南海電鉄にヒアリングしたわけではないので実際のところはわかりません。)




逆に、南海電鉄にとって見ると、各店舗からの使用料はそれなりの収入源にはなりそうですが、南海電鉄としても大阪市に対して占用料(オープンカフェの場合、年間10,300 円/㎡)を支払う必要があります。


かに道楽裏スペースで考えると、単価は休日で320円/日・㎡(税抜)なので、年間で休日約32日間分の使用料収入があれば元が取れます。

年間に土日祝日は120日程度あるので、なんとなくいけそうなラインかなという気はします。



一方で、スペースの利用については、下図のような手続きの流れがホームページにありました。

出所)とんぼりリバーウォークHP

http://www.tonbori.jp/




これによると、イベント実施の1か月前までに企画書を提出する必要があります。


オープンカフェ等全てのイベントが同様の手続きなのかはよくわかりませんが、占用主体である南海電鉄は、基本的に大きなイベントごとはその1か月前に開催有無が把握でき、どのスペースで使用予定があり、逆にどのスペースが空き状態の予定であるかが把握できているということになります。



ということを前提とすると、かに道楽裏の低利用のスペースももう少しうまく生かせるのでは、という気になってきます。


例えば、1か月前に使用予定のないスペースについては、スーパーの夕方以降の半額シールのように、少し使用料を下げてでも各店舗にオープンカフェ利用を促進することで、各店舗は利益を上げられる可能性は上がりますし、南海電鉄としても何も使用されず使用料収入ゼロよりはマシですし、とんぼりリバーウォーク全体としても川沿いの賑わい創出に繋がりますし。(実際には、そのマネジメントコスト等、いろいろな障害はあるのかもしれませんが。)







ここまで、とんぼりリバーウォークの現状の課題などもいろいろと述べてきましたが、社会実験前と比較すれば既に状況は大きく変化しており、確実に道頓堀川沿いの雰囲気は変わっているはずです。


それを示すファクトである、現状の数字を載せておきます。

もともと道頓堀川を背にしていた店舗が、徐々に、川側に開いてきている様子が伺えます。


オープンカフェ設置数も徐々に増加し、平成25年時点では15店舗となっています。今月、私も現地で数えてみましたが、たしかに15店舗程度はありそうでした。


出所)3つとも、国土交通省資料に一部加筆

http://www.mlit.go.jp/river/kankyo/main/kankyou/machizukuri/pdf/06-02.pdf



イベントについても、年間62回、つまり、平均して週1回は何かしらのイベントが開催されているという状況のようです。



今後も、民間の活力を上手くいかし、常に賑やかなミナミらしいスポットであり続けてほしいなと思います。



非常に長くなり、書きながら何度も迷子になってしまいましたが、今回の大阪の水辺空間利活用の「しくみ」(とんぼりリバーウォーク編)は以上です。


次回以降はもっとサクっと要点のみまとめていくスタイルにしたいと思います。



【キーワード】

・占用

・河川敷地

・河川法、河川敷地占用許可準則

・道頓堀川、とんぼりリバーウォーク

・オープンカフェ



【引用・参考文献】

・大阪市HP「道頓堀川・遊歩道(とんぼりリバーウォーク)の賑わい創出の取り組みについて」

http://www.city.osaka.lg.jp/kensetsu/page/0000275944.html

・とんぼりリバーウォークHP

http://www.tonbori.jp/

・e-Gov法令検索「河川法」

http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=339AC0000000167&openerCode=1#66

・国土交通省HP「河川敷地占用許可準則」

https://www.mlit.go.jp/river/press_blog/past_press/press/9907_12/990804e.html

・国土交通省関東地方整備局HP「河川の占用」

http://www.ktr.mlit.go.jp/river/sinsei/index00000001.html

・京都市資料

http://www.pref.kyoto.jp/kamogawa/documents/1301011338426.pdf

・リバーフロント研究所報告大17号「河川敷地利用の拡大に伴う社会的影響について」

http://www.rfc.or.jp/rp/files/17-18.pdf

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いろんなまちをぶらぶら歩いて感じたことや気になったものについて、特に「ひと」や「しくみ」といった視点から、そのまちの写真とともに記録しておく備忘録です。